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    活動報告

    プロジェクトB公開読書会報告  “Heritage and School Language Literacy Development in Migrant Children: Interdepend-ence or Independence?”

    子どもの日本語教育研究会 研究企画委員会 Project-B 
    活動報告 202265日公開読書会について

    研究企画委員会プロジェクトBチームでは,「ことばと参加」について理論的視点から考える取り組みを行っています。今回は,プロジェクトBメンバー以外の方にも公募メンバーとして加わっていただき,継承語と学校言語の関わりに関する文献を輪読して議論しました。母語・継承語を学ぶことがただちに学校言語の向上に役立つと考えられているが,それは本当か?と疑問を投げかけた挑戦的な次の図書です。

    Berthele, Raphael and Lambelet, Amelia (eds.)
    “Heritage and School Language Literacy Development in Migrant Children: Interdepend-ence or Independence?”

    読書会からは少し時間が経ってしましましたが、参加者のコメントをまとめてご報告します。(2022年10月14日)

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    研究企画委員会プロジェクトBチームでは,「ことばと参加」について理論的視点から考える取り組みを行っています。
    今回は,プロジェクトBメンバー以外の方にも公募メンバーとして加わっていただき,継承語と学校言語の関わりについて標記の文献を輪読して議論しました。標題にもあるように,母語・継承語を学ぶことがただちに学校言語の向上に役立つと考えられているが,それは本当か?と疑問を投げかけた挑戦的な文献です。
    英文に四苦八苦しながら読み終えたこの文献そのものからの学びも大きかったのですが,多様な環境や立場で子ども達のことばの学びに関わる公募メンバーのみなさんと一緒に議論の場を持つことができたことがは,何よりの収穫でした。読書会に参加してくださったみなさんからの声をお届けします。


    継承語と学校言語のリテラシーの発達がInterdependence or Independenceかというインパクトあるタイトルに惹かれ、はじめて読書会に参加させていただきました。HELASCOTプロジェクトというかなり大規模な調査をまとめたこの本の調査結果は、私にとって非常に興味深いものでした。私自身、多言語背景をもつ子どもの保護者のひとりなのですが、親として子どもには継承語も学校言語も大切にしてほしい、両方を伸ばしていってほしいと願っています。これまで、継承語の教育が学校言語にもプラスの影響を与えていると信じ、我が子へも積極的に継承語教育を行ってきました。しかし、今回この本の研究者たちが行った量的研究の結果から、かならずしも継承語の力と学校言語の力に期待するほど、言語の発達上の関連性があるわけではないということ、継承語教育を行っても、学校言語の力をそれほど高められるわけではないということを知り、少し複雑な気持ちになりました。日々、継承語の教育が子どもに多くの負担を強いてしまっているのではないかと感じているからです。しかしながら、読書会の皆さんとの議論を通して、大人や社会がマイナー言語も含み多言語環境に価値を見出していくこと、また、子どもがしあわせに成長していくためには、「参加とことば」という観点から、言語の個人的・言語の社会的な意義を考えていく必要があるのだということに気づかされました。 
    (栃原玲子)


    バイリンガリズム・バイリンガル教育の研究者の間では、カミンズの相互依存仮説と転移は広く受け入れられています。課題図書は、継承語を母語とする子どもに、教育システムにおけるリテラシー能力への共有基盤能力と転移の可能性を検討したものです。
     私が勉強会に参加した理由の二つあります。第一は、継承語話者を対象にした実証研究を集めた課題図書から、日本の言語文化背景が多様な高校生のリテラシーの伸長に適用できるものを見つけることです。私が担当した章からは、第二言語で習得したライティングスキルの継承語への適用の可能性と、複数言語での教育は子どもの思考力や認知力の育成に影響があることがわかりました。各章から、このような子どものリテラシーと思考や認知の発達に関する教育的介入の意義を得ることができました。
     二つ目の理由は、英語で書かれた図書の内容を一人で読み解くことへの不安です。勉強会には、バイリンガル教育や学校教育の研究者と現場のご経験の豊富な先生がおられるので、わからないことはお尋ねすれば良いと、大船に乗ったつもりで参加しました。実際、詳しい解説つきレジュメを下敷きにして検討が行われ、一つひとつの章を理解するだけでなく、章と章との共通点やつながりを知ることができました。また、小さな疑問やつぶやきをPadletへ書き込むと、たくさんのお答えやコメントを得ることができ、考えを深められました。このような過程を経て、課題図書を読み切った充実感は、何物にも代え難いです。            
     (権野さち)


    私はスイスに住む日本語教師で、継承日本語教室に通う子をもつ保護者です。そのため、この本で最も気になったのはこの研究が社会や政策に与える影響でした。第10章の内容を浜田先生の要約より引用します。
       ・ 継承語が学校言語の能力に与える影響は大きくない。                 
       ・しばらくは転移よりも文化的,社会的,美学的価値等他の価値が提唱されるべき。
       ・本書の結果は残念なものだが,本書は継承語教育反対のパンフレットとして読まれるべきではないし,継承語教育賛成のパンフレットとしても読まれるべきではない。
    スイスには、継承語教育推進法により学校への支援があり移民家庭にとってありがたいのですが、国が「効果」を求めるのも当然でしょう。この本の結論は2言語相互依存や転移の効果に疑問を呈するもので、「予算削減につながるまずい結果なのでは?」と思いました。
    しかし、継承語の「道具的価値にとどまらないその他の価値」についても考えるべき、と指摘されています。また、継承語教育の賛否を問うものではない、と。教育には、常に時間とお金と葛藤の問題があり、代償として目に見える結果を求めてしまいがちです。でも、それ以外の継承語の価値を、教師として、親として、考え続けたいと思いました。最後になりましたが、参加させていただきありがとうございました。一人では読みきれなかったのですが、皆さんのおかげで理解が深まりました。コミュニティで勉強する意義を、深く感じた輪読会でした。
    (宮崎ストレスレ梓)


    本書は、スイスの移民の子どもたちの複数言語、主にリテラシーに焦点を当て、大規模な横断的かつ縦断的な複数の調査によって、二言語の共有または転移の可能性を考察したものです。挑戦的な副題、Interdependence or Independence ?(相互依存か独立か?)にも示されているように、過去40年近くに渡って多くの支持を集めてきた二言語相互依存説(Cummins, 1979)を批判的に検討していることもあり、出版後にバイリンガル教育分野の研究者の間で話題となりました。カミンズ自身もCummins, J.(2021). Rethinking the Education of Multilingual Learners: A Critical Analysis of Theoretical Concepts. Multilingual Matters.の中で本書に対する反証をおこなっています(pp.224-229)。 
    第2〜6章で扱われたHELASCOTプロジェクトでは、スイスのフランス語圏とドイツ語圏の学校に通うポルトガル語を家庭言語とする子ども252名(週2時間程度、継承葡語の教室にも通う)と、対照群(仏語、独語、葡語のモノリンガル)256名に対して、小学校3年の初めから4年の終わりまでの間に計3回、読解力と物語作文、論述作文の課題を実施しました。
    この調査では、従来の多くの研究で行われている、ある一時点(T1)の二言語スコアの相関を検証するだけでは相互依存や転移の実証にはならないという理由から、クロスラグ型の研究デザイン(T1時点での個人の言語AのスコアがT2時点の言語Bのスコアに及ぼす影響をみる)を採用しました。結果、この方法でも言語間における縦断効果、すなわち、二言語間での影響があることが確認されました。しかしながら、筆者らは、学校言語(仏語、独語)が家庭言語(葡語)のリテラシーに大きく影響している証拠が得られなかったこと、また、言語間距離(仏-葡語間、独-葡語間の距離の差)による影響の度合いの差がみられなかったことから、相互依存説に疑問を呈しています。
    ただ、二言語相互依存説は、転移は状況(接触機会と動機)に応じて双方向で起こるとされていますし、言語間距離も問題にはされていません。よって、これらの観点で実証されなかったことが相互依存説の反証にはならないのではないかと思いました。さらに、本調査で設定されたテスト問題も、筆者らが測定したかった深層面の認知リソースを含むリテラシーを測定しうるものかという点でも疑問が残ります(この点については、筆者らのお考えを直接伺ってみたいところです)。
    とはいえ、このような大規模調査を実施し、データを抽出して分析するには多くの困難が伴いますし、それをやり遂げるのは並大抵のことではないと思います。二言語相互依存説を、「継承語教育をすれば学校言語の学習言語能力が伸びる」と拡大解釈して、安易に政策に利用しようとする政策立案者らに対して、研究者の立場から実証データを示そうとする姿勢からも学ぶ点が多いです。そして、子どもの言語能力の捉え方、子どもがもつ複数言語間の関係、さらには言語と思考との関係について考える材料を与えてもらったという点でも非常に読み応えのある一冊だったと思います。
    (櫻井千穂,プロジェクトBメンバー)

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      6月5日 プロジェクトB 公開読書会報告